弟は、気が狂った脱走兵に殺された。
僕と弟はなんとか火の手から逃げ切ったものの、ストレスで気が狂った兵士に弟が取り押さえられてしまって、「兄ちゃん助けて!」の声に気づいて僕が振り向いた頃には口に銃を咥えさせられていた。僕が「やめ…」といいかけたとき、兵士は引き金を引いた。
弾は弟の小脳を貫いたのだ。
続けて、ドスン、ドスンと胃のあたりを撃った。
弟は真顔で大量の血を吐いた。
一気に力が抜けて押さえられていたにも関わらずくにゃくにゃと地面に倒れた。
僕は思わずその場で固まった。僕の大事な弟が眼の前で殺されたのだ。
下手に関わると自分も殺されるかもしれなくて、反発することもできなかった。
弟がこんなひどい目にあってるのに何もしてやれないのが悔しかった。
兵士はおぼつかない足取りでどこかに歩いていった。
僕は弟のほうへ走っていって「四郎!四郎!返事しろよ!」って痛そうなくらい強く揺すったけど返事もなければ動きもしなかった。
僕はただひたすら弟の血なまぐさい体に顔を埋めて咽び泣いた。
少し落ち着いたところで、このままでは弟の体が腐ってしまうと思ったから火葬場まで背負っていくことにした。
生きてた頃に抱っこしたときは軽かったのに、死んだ弟は自分から掴まってくれなくて重かった。
くたくたになるほど歩いてやっと火葬場を見つけた。
「弟が死んだんです」って言うだけのことがうまくできなかった。
口が震えながらもなんとか言い終えると、弟は服を脱がされて焼却炉に放り込まれた。
体の中に残る銃弾が焼け残った。それで僕は、弟が着ていた服と残った銃弾を渡された。
これが弟が遺したものだと思うと涙が出た。
こんな、弟を殺した銃弾はバラバラに砕いてしまいたい。
と思ったのを飲み込んで銃弾をポケットに入れた。
その後弟の遺品を持って無事だった親戚の家に行って、そこで暮らした。そのまま終戦を迎えた。平和になった今、僕はもうこんなに年を取って枯れ果ててしまった。
今でも弟の遺品は僕の家の押入れの中にある。
大切にとっておいたから、今でもある程度きれいに残っている。あの銃弾も。
それが、最初の写真だ。
あのとき火の手から逃げたのは昼間だったから、弟も僕も学生服を着ていた。今でも学生服を着た子供を見ると、あの頃のことを思い出す。
でも、あのとき僕と弟がしたような思いは誰にもしてほしくない。
だれもがあの頃のことを忘れないよう、僕はこれからもあの体験を語り継いでいきたい。